2014年5月16日金曜日

寡黙な天才が造るワイン「シャトー・ド・サンコム」

ワイン界には天才と呼ばれる人物はたくさんいる。
その一人、「ジゴンダスの天才」と呼ばれるのが、
シャトー・ド・サン・コムの14代目オーナー、ルイ・バリュオール氏である。


かの有名ワイン誌『ワインスペクテイター』にて「GENIUS OF GIGONDAS」と
大見出し付きで紹介され、あのロバート・パーカー氏も
「初めてルイ・バリュオールに会った時、彼が情熱、才能に事欠かない人物であり、
間違いなくローヌのスーパースターの一人であるということは確かだった。」
と手放しで褒めたたえている、という人物だ。






















 シャトー・ド・サン・コムはジゴンダスの老舗ワイナリー。
ルイ・バリュオール氏の祖先は、1570年には
サン・コムのワイナリーを手に入れていたと言われている。

14代目のルイ氏の父、アンリは地所を拡大し、
1970年代には当時珍しかった有機栽培を始めていた。
しかし、まだまだサン・コムの知名度は低く、
そのワインはバルクで大手のワイナリーに売られていたという。

ルイ氏がワイナリーを継いだのは1992年、弱冠23歳の時だ。
彼はパリでMBA取得の勉強中であったが、
父のアンリ氏が急病で倒れ、予定を大幅に早めて
ワイナリーを継がなければならなくなったのだ。

彼はワインの学校には行かず、
ただひたすら父アンリのワイン造りを見て、そのいろはを学んだという。


さて、ルイ氏が天才と呼ばれるようになったのはなぜか。
それは、それまで注目されなかったサン・コムの唯一無二とも言うべき
テロワールに注目し、自然に忠実なワイン造りを推し進めた点にある。

サン・コムの独自のテロワール、その一つは、
ワイナリーがその裾野に位置する「モンミライユ山脈」
にある「ドンテル」と呼ばれる切り立った石灰岩にある。

このドンテルは、100%石灰でできた巨大な岩が隆起したもの。
地面からにょきにょきと切り立っている。


そしてサン・コムの独自のテロワールとなっているのが、
このドンテルが地表に出てくる際に出来た、「土壌のミックス」だ。
石灰岩と泥炭土がレース状に混じり合う土壌において
ドンテルが隆起することで、様々な地層がミックスされる。
これこそがサン・コム独自のテロワールなのである。












 
(↑ミックス土壌が生まれるイメージ)


ジゴンダスでこの土壌があるのは、サン・コムだけ。
同じようなミックス土壌が見られるのは、
バローロやバルバレスコといった銘醸地だけという、
非常に貴重な土壌なのである。

ルイ氏曰く、
「粘土質は、わかりやすく明快なモーツァルトのイメージ。
石灰質はエネルギッシュながら、繊細で複雑なバッハのイメージ。」
趣味でチェロを演奏するルイ氏ならではのコメントだ。
特に石灰質が多いことで、よりエレガントなワインが生まれるという。

サン・コムの独自のテロワールの二つ目は、その日照条件にある。
モンミライユ山脈のちょうど中腹にあるサン・コムの畑は、
ちょうど朝日が当たる午前8時~10時くらいの2時間、
太陽が山陰に隠れて畑には朝日が届かないという。

朝日が当たらないことによってブドウはゆっくりと熟していく。
そのため、通常のシャトー・ヌフ・ド・パプが9月中旬に収穫時期を迎えるのに対し、
10月くらいにずれ込む。ただそのおかげで、表面だけでなく
芯にある種までじっくりと熟したブドウが収穫できるのだという。
ルイ氏は、この特性に着目し、それまで取り除かれることの多かった茎も
一緒に発酵することを思いついた。
ブドウの茎や梗、種がしっかり熟すことによって、
青臭さとは無縁の完熟したブドウの風味を持つワインが生まれると考えたのだ。

これには周囲が大反対したが、結果的には茶色く熟した茎ごと発酵することで、
ワインにはそれまでなかったエレガントでスパイシーな風味と
タンニンが生まれることになったのである。


幸運なことに、1990年のジゴンダスと、1998年のジゴンダス・ヴァレブルを
飲み比べする機会に恵まれた。

1998年のジゴンダスは、先代のアンリ氏が病に倒れたため、
当時21歳だったルイ氏を急遽呼び寄せ、初めて一緒に手掛けたヴィンテージ。
そして1998年は、ルイ氏が初めて1人で手掛けたヴィンテージ。
どちらもルイ氏にとって思い出深い記念碑的なワインである。













1998年は、南ローヌのグレートヴィンテージ。
色合いはまだまだ濃く、プルーンや干しぶどうを思わせる
フルーツの香りに、スパイスのニュアンス、タンニンがしっかりと感じられる。
驚くほど若々しく、偉大なヴィンテージらしい堂々とした素晴らしい味わいである。

一方で1990年のジゴンダス・ヴァレブル。
色合いは綺麗に熟成が進んだ透明感のある淡いルビー色。
複雑なアロマとタンニンがシルクのように溶け込んでおり、
継ぎ目が全く感じられない。まさに円熟の境地といった味わい。
ブルゴーニュの熟成したグラン・ヴァンを彷彿とさせる素晴らしい味わいである。

ルイ氏が手掛けたヴィンテージも、父のアンリ氏が手掛けたヴィンテージも、
いずれも素晴らしい熟成を遂げていた。
この事実こそ、若き日のルイ氏が父の背中を見て学んだ全てを物語っている。


寡黙な天才は多くを語らない。
だが、この熟成したジゴンダスを飲み比べて、
天才が伝えたかったことがわかった。

ルイ氏が天才であると言われる所以。
それは、技巧的なワイン造りでも、マーケティング能力でもない。
ただ一点、シャトー・ド・サン・コムの素晴らしいテロワールを
最大限生かした自然なワイン造りをしているということである。

唯一無二の素晴らしいテロワールによって生み出される
ブドウに敬意を払いながらワインを造る。
先代が築き上げた技を体得し実践する。
どちらも簡単そうに見えて、実は至極難しい。

それをさらりとやってのけ、さらに進化させているルイ・バリュオール氏。
彼が天才と言われる訳が分かった瞬間であった。


今回ご紹介したワインはこちら
※ヴィンテージは異なります。

2012年 ジゴンダス / シャトー・ド・サン・コム